ク・ナウカ 稽古場レポート


●
宮城vs夏井●

●夏井孝裕の稽古場レポート●


第9回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバルの特別公演は、日本をはじめとして、韓国、アメリカ、フランス、インドなど、世界をまたにかけて活躍するカンパニー、ク・ナウカ。台詞を担当する「スピーカー」と動きを担当する「ムーバー」の2人で1役をこなすという独特かつ先鋭的な手法が特徴です。

今回のレポーター夏井孝裕さんは、第7回演フェスに参加したreset-Nの作家兼演出家で、以前、宮城氏の演出助手を勤めた経験も持っています。今回は久々の稽古場登場ということになりました。(事務局)

稽古場1演出をつける中野真希氏
稽古をみつめる宮城氏と夏井さん稽古場2
稽古場3宮城氏と中野氏の暗がりでの話し合い
夏井さんに「ルル」の解説をする宮城氏稽古場4
稽古場5宮城氏の話をじっと聞き続ける役者陣


宮城vs夏井

夏井:……初演の時の反省点みたいなものは?
宮城:初演は(笑)大体中野くんに演出してもらったんだけど、僕が『ルル』を読んだときに感じたことはね、僕の考えなんだけど、19世紀までは男性原理による政治の中で女性はアイデンティティーなんてものに依拠せずに自分の中に流れている生命の流れとかいうものにむしろ絶対的な価値をおいて、人間を半分握っていた。それが、20世紀になって女までアイデンティティーという神話にとらわれてしまって、「自分は何だろう」とか「私は私でなくちゃいけない」とかとんでもないことを考えるようになって、『ルル』はそのさきがけになってる。20世紀になって女がそういうことを考えるようになったために男性原理が世界の全てを覆うようになってしまって、自然破壊が進んで地球は終わりかけてると。だから環境破壊ってのが20世紀になった途端突然こんなふうに進むんだけどそれは科学の進歩とか何とかじゃなくて、世の中の半分を握っていたエロスってものが崩壊してアイデンティティーっていう側にとりこまれてしまったからだと僕は思ってるわけね。
夏井:はあ、はあ。
宮城:城:うん、うん。で、そのときにルルが20世紀の女として自分はアイデンティティーがほしいっていうふうに喋る女として、戯曲史上というのかな、初めて登場した女というふうに考えられる。はじめて、っていうと「いや人形の家のノラが初めてだろう」といわれるだろうけど、ルルはノラと相前後して、一種の相互補完関係をもって出てきてるんだよね、女性のアイデンティティの目覚めという点で。そういう女たちが初めて出てきたことの象徴として現れてきた登場人物だと考えられる。で、そうすると女がそっち側にいってしまえば、もうある意味では女に救いを求めることはできなくなるからその、女に救済を求める、タルコフスキー的なね、女に聖母みたいな、やがてイエスを産むみたいなことは考えられなくなってくるから、そうすると最終的には男が子供を産むしかないんじゃないかというとんでもないことを考えたわけ、僕は。初演の時は。
夏井:うーん。
宮城:もう女は救いをもたらさないと。そうすると今度は女が果たしていた役割を男がやるしかなくなるんじゃないかと。女がアイデンティティーの側にいったんだったらば男がイノチの側に立つしかないなというふうに、考えた。で、それで最後の場面ではその、もともと戯曲では切り裂きジャックにルルが殺されることになってるんだけれどもそのときに切り裂きジャックが子供を産んでしまったんだっていう、わけのわからないエンディングになっていたわけ。で、血まみれで出てくるのはルルを殺したんじゃなくて、おなかから赤ちゃんが出てきたために血まみれになっていたと。そういう途方もなく突飛なエンディングがついてたんで作品としての一貫性を欠いたと(笑)これが、反省(笑)。
夏井:反省(笑)。今回は、じゃあ…。
宮城:今回はその突飛なのはなくなり、中野くんがもうちょっときれいな流れを作ってる。
夏井:中野演出のタノシミドコロは…。
宮城:中野演出のタノシミドコロはねえ、やっぱり細かい緻密なところでしょうね。関係のつくり方が緻密なところだね。「ここではこの人はこうしたいんじゃないか」とか、いう。で、「何で君がこう返事しちゃったのか」とか、いう。役と役のあいだ、あるいは動きと台詞のあいだの「本当は彼はこうしようとしてたと思うんだけど何でこんなときにこうしないのか」とかいう、それをすごく細かくいうんだよね。彼は。僕はそのへん任せちゃうから、大体いつも、役者に。密度を濃くしていくっていうことはすごく得意だと思うんだよね。だからそこを楽しんでもらうのが、僕にない味という意味では。 夏井:あとは、お客さんに何か…。
宮城:うーん、
夏井:先が見えないですけれども。
宮城:(笑)まあ、ヴァンテの空間についてはすごくうまくいきそうな気がしてます。
夏井:このバスルームみたいなのって面白いですね。
宮城:まあ、この三方舞台にしてあの劇場じゃないところをどう使うのかっていうそういう切り取り方がうまくいけば、今回3本目とか続けて観て4回目とかそういうお客さんにとっては「こういうふうになるのかヴァンテも」っていう楽しみ方があると思うんですけれども。
夏井 ありがとうございました。

宮城

2人の間で、師弟の契りを交わしているかどうかは定かではありませんが、宮城氏になかなか突っ込めない夏井さんというのもなかなか面白いものがありました。ということはおいといて、いよいよトリとなるク・ナウカの「ルル」。密度の濃い素晴らしい公演になりそうです。皆様お誘い合わせの上、ぜひご観劇にいらしてください。 (事務局)


夏井孝裕の稽古場レポート

ク・ナウカの稽古している保育園に到着したのは19時45分。休憩中なのに、異様な緊張感があった。本番3週間前でこんなに張りつめた空気なのは、宮城聰氏が初めて稽古場に来たせいらしい。ピリピリとした夜の保育園を演出の中野さんは静かに支配している。CGで出力された舞台デザイン図を見せてもらう。見たことの無いようなデザインで、面白い。

稽古が再開される。保育園での稽古なので、装置の代わりに跳び箱が使われている。稽古着で、蛍光灯で、跳び箱のク・ナウカ。

中野さんが芝居を止めて、一人ずつに丁寧なダメ出しをしていく。「不可解な間が多い」「ブレスが浅い」などなど。喋る人と動く人の二人で一役という特殊な上演形態のため、完璧にタイミングを合わせていくことが命綱だ。また再開。普段のク・ナウカの演目に比べると台詞がずいぶんナチュラルな文体だ。極限状態の言葉が少ないぶん、やりにくいように見える。

再び休憩。ひととおりのダメ出しを終えて部屋の外に出た中野さんが戻ってこない。廊下に出てみると宮城さんが中野さんに意見を述べているところだった。長い時間、宮城さんは話し続ける。そして宮城さんは中野さんに促され、俳優たちに話し始めた。「こんな稽古して何になるの?」と。

そのまま1時間以上、宮城さんは一人で話し始めた。
「このままやってもただちょっとうまくなるだけ」
「イメージがありふれてる」
「寝ないでやらないとまにあわないんじゃない」
「これだったら録音してテープで流したほうがまだ虚構性が出る」
「動いては言えないような言葉を出さないと、動きと分ける意味がない」
「お客さんがもってるイメージに勝てない」
「最終地点をどこにするのか」
「動きはよくやってるが、声に気が出てない」
俳優は石像のように言葉を浴び続けている。
「最低限やれっていわれてることをやってんのかよ」
宮城さんの言葉に時々ナマの苛立ちが混じる。
「芝居がラクなもんだと思ってんならやめたほうがいいよ」
それは愛のムチといったものではなく、自分が精魂を傾けていることを冒涜されるときの敵対感情のようだった。
「ありふれたものにどれだけ距離をとれるかという個人個人の作業だよ」
そうか、それは俳優の仕事なんだ。私は演出の作業だと思ってました。ク・ナウカの俳優に課せられた使命は究めて大きく、重い。

時間が来て宮城さんは言うべきことを言い終え、稽古はそれで終わった。俳優は沈黙したままだったが、中野さんはポジティヴな顔をしている。やるべきこと、やれることがはっきり見えている演出家の顔だった。本番が楽しみである。ク・ナウカが生半可な覚悟でやってはいないことを、私が保証します。

夏井 夏井孝裕

プロファイル

95年、reset-Nを起動。
97年、ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバルに出場。
99年、第四回劇作家協会新人戯曲賞受賞。

今後の活動予定

11月19日〜23日 西荻WENZスタジオにて、
劇作家協会新人戯曲賞受賞作『 knob 』 を上演。
reset-N LINE http://village.infoweb.ne.jp/~reset/


[ク・ナウカTop]

-------------------------------------------------------------------

にしかど (nskd@enpe.net)