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昨日、とんでもない悪夢を見ました。夢の中で蜷川幸雄がエージェント・スミスのごとく大増殖して、私を追いかけてくるのです。もうそのニーナの恐ろしいことったら。八岐大蛇も三叉を避く勢い。そして夢分析せずとも分かることでしょうが、これはストレートに蜷川幸雄の仕事に、毎日のように何かしら侵され続けているせいではないかと思われます。先月は鋼太郎さん、先週は二宮くん、一昨日は萬斎、そして、麻実女王と取材攻勢のオンパレード。誰も彼もが「蜷川、かくのたまえり…」と話し始めるのです。むろん、今月もこの蜷川軍の勢いは衰えることを知らず。『タイタス・アンドロニカス』の千秋楽がついこの間だったと思ったら、もう渋谷で『シブヤから遠く離れて』(★★★★)の本番が間近です。そうそう、『新・近松心中物語』(★★★★)の日生開幕が"シブヤ〜"の2日前ですね。まさに天下無双のバイタリティ。その自在極まる活動には感服せざるを得ません。何より、最近の蜷川作品は並々ならぬ潔さに溢れています。自身のなかで鬱屈とした想念を溜め込んでいき、頭でっかちな妄想に終わってしまうようなことがなく。とにかく、観客に対して思い切りがいい。「これをみてくれ」という、簡明な見せ場、が随所にある。人によってはそれを「力技」と切り捨てる人もいるかもしれませんが。私はそうは思わない。淡々と線路の上を走っていくような安定した列車よりも、たまに勢い余って宙を飛んでしまうような、飛躍力のある列車のほうが。蜷川芝居を見に来るような観客は乗ってみたいものでしょう。 別の意味での飛躍力は毛皮族でも見られます。『DEEPキリスト狂』(★★★★)というタイトルからして、既成概念を爆破するかのごとき強さです。ただし彼女たちのそれは、蜷川の体全体で自由奔放に風圧を感じるような飛躍力とは違い、クラスター爆弾ですべての遮蔽物を破壊し尽くしてから離陸するというか…。観客もろともベトコンの戦闘機に乗せられたかのような危なっかしいフライトなのです。だから普通の精神状態じゃ乗れないんですね。ある程度、毛皮族の芝居を観に行くときには狂ってないと乗れない。発狂寸前の恍惚感とは、こういうことを言うのかもしれません。まあ実はそれでいて、一線では"理性"を保っているところが毛皮族の人気の秘密でもあったりするわけですが…。駅前劇場で1ヶ月、常識人を狂わしていって欲しいものです。 他の星4つは、ジョナサン・ラーソンの『RENT』(★★★★)と、岩松了脚本タ・マニネの『ワニを素手でつかまえる方法』(★★★★)。前者は説明不要でしょう。レントヘッズなる追っかけが全米中に散らばる、90年代ミュージカルシーンのエポックメイキングな傑作です。今回はいつになく若いキャストが来日するようで。エネルギッシュな舞台を期待できそう。後者は岩松了と小林薫によるユニットの久々の公演。荒川良々、片桐はいり、緒川たまき。幇間、長屋のばあさん、隣町の娘さん。なにか落語噺に例えたくなるほど、あまりに濃厚なキャラ立ちというか、役割分担の上手く振られたキャスティングに感服です。岩松得意の群像的から何が照射されてくるのか楽しみ。今月の四つ星は以上。 表紙へ |